うひほー♪
バッジ獲得ドギレース、第4回中間発表のコメント欄でも話題を独占の、あっぷあっぷさんからいただいた豆本を、こま犬の置物の間に置いて写真を撮ってみたよー。
(._.)礼 (-人-)カシワデ! (._.)礼
第二話『闖入者を撲て』(後編)
ここは四方津神社の境内である。神主のタウエ老人と、山歩き姿の青年三人が話し合いをしていた。
「つまりですねぇ、学術調査のためにここのご神域の森に入りたいのですけど…」
「それはならんといっとろうが…。いいかな、この神社は、崇神天皇の御代に創祀されて以来、明治四十年代の合祀令下の圧迫も切り抜け、今に至るまでおよそ千八百年、神林はその間絶えることなく人払いをして守ってきたものだ」
「千八百年ってこたないでしょう。今どき日本書紀の紀年をまに受けてるんですか」
「イヤ、イヤ、縁起に千八百年と書いてあるんだから」
「だからですねぇ、長いこと守られてきた森だからこそ、珍しい植物や昆虫が残っている可能性があるんですが。それを調べれば学問も進歩するし、自然保護の役に立つんです」
「ともかく、俗なモンは一切入れんことになってる。いや、学者なんて、もってのほかだよ。さぁ、もういいから、帰った帰った!」
タウエ老人に追い返され、三人の青年学者は、さんさんと輝く太陽のもと、長い階段をとぼとぼと下りはじめた。
「いや、まったく…、こんな格好までしてきて」
不満を言い出したのは、一行のなかで一番若いスワ研究員である。
「まぁ、何度かおじゃまして、ねばり強く交渉するさ」
調査団長のスギウラ博士が気を持ち直すように促した。
「いや、正門から入ることないでしょう。ほら、どこからだって森には入れる」
そう言って、階段からはずれて草むらを踏んだのはカネマル研究員だ。
「カネマル君、焦ることはない」
「そりゃあいい、カネマルさん。行きましょう」
スワ研究員が同調した。
「おいおい、カネマル君、スワ君、待たないか。やれやれ…、しかたがないな」
なんだかんだ言って、スギウラ博士も、二人のあとを追って四方津の森に入っていった。
…
「弓ヶ丘高等学校」…ナガハラ・ハルカが通う学校だ。空はよく晴れわたって、昼休みどき、元気のある生徒は教室辛気くさしと校庭に飛び出て駆け回っている。二年B組の教室も、閑散として、数名がたたずむのみだが、そのうちの一人がハルカだ。
もう一人の女子は、タウエ・アキといって、ハルカの幼なじみであり、四方津神社の神主タウエ老人のひ孫にあたる。制服が──「弓高」の女子の制服は、古朴な神社が残っている町にふさわしいと言うべきか、今どき珍しい典型的なセーラー服なのだが──よく似合うといわれる一方で、「電波人間」の異名をとる一面も持っている。
もう一人、机に伏せるようにしてノートに何か書き付けている男子は、モモタ・ヒカルだ。この三人は昼休みの教室に居がちで、また、部活に加わらず、帰る方角も同じで、しばしば「帰宅部」として活動する三人でもある。
「だから Linux でディレクトリをとるのは dir じゃなくて ls だってば…」
「だってー、つい DOS の感覚でキーを叩いてしまうんだものー」
「なんでアキは今どき DOS なんかに慣れ親しんでるんだ…」
アキが持参のノート PC を前にしての会話である。月並みな高校生よりは深く PC をいじるのが二人の共通の趣味であり、中学進学以来あまり会わなくなった二人を最近になって再び結びつけたのもこの共通の趣味なのだ。
「あ、ナガハラぁ」
「あ、"どっぴー"だぁ」
「こらこら、タウエ、先生をあんまり気安く呼ばないでよ」
そこへ入ってきたのは、担任のドヒ・ミツキ先生である。
「だって、"ドヒ"ッて発音しにくいし」
「名字は仕方ないから、せめて"ミツキ先生"くらいに呼んでよう…」
「で、そのミツキ先生は何の用ですか?」
「はっ…、そうだった、ナガハラさん。あのねー…、明日はちゃんと制服で授業に出てほしいんだけど…」
ハルカはいつもジャージ姿で登校しているのだ。
「なんで、明日?」
「いやぁ、タニガワ校長が突然授業を視察したいとおっしゃるので…。一時間だけなんだけど」
「…制服でないといけないの?」
「まー、別に何もないと思うけど…いちおー、事なかれ主義っていうか…」
「むー…」ハルカの気性を察して、ジャージ登校を容認どころか擁護してくれているミツキ先生である。事なかれ主義を正直に告白するのも、憎めないところだ。むげに断るのは信義にもとると、ハルカは思う。
「…しょうがないッすね…」
…
四方津神社の森の中へ、三人の研究者は深く入っていった。
「ふむ、この森はすばらしいね」
スギウラ博士が古木をなでながら言った。
「神社なんかに持たせておくのは惜しいですなぁ」
スワ研究員が応じた。
「スギウラさん、この蟻は珍しい」
カネマル研究員がそう言って、足下の蟻をつまみ上げ、ほかの二人もそれに注目して下を向いたとき、にわかに日が陰った。雲がかかったにしてはおかしい。森の上に何かが覆い被さったような感じがする。
「ん? なんだろう」
「え?」
「アッ──」
三人が上を向くと、そこにあったものは、巨大な、恐ろしい形相──、そう、邪神デビューボだ!
{{{──タ、タ、ル、ゾ、ヴォケー!}}}
なんというデビューボの咆吼! そして、木々をなぎ倒して、三人に襲いかかってきたのだ!
「な、なんだぁ」
「逃げろーっ」
「あーっ!」
三人の運命は、果たして!
【CM】
【CM】
「で、ハルちゃんは、明日制服を着てくるのー?」
「…そうだねー…」
弓高からの帰り道、帰宅部の三人である。
「…ナガハラさんは、どうしていつもジャージ登校なの?」
と訊いたのはモモタ・ヒカルだ。
「あー、もう、いいじゃん。それは明日。今日はまだこれからすることがある」
ハルカは、ポケットから、黄緑色の勾玉を取り出した。あの勾玉だ。
「あぁ、さっきも話してた…、で、結局どこで拾ったっていう話だったんだっけー」
「それを今から確かめに行くんだ」
…
「うーん、これはよくできているなぁ…」
四方津神社への階段の踊り場に、タウエ老人に呼ばれた警察官アキヤマ巡査長は来ていた。
「たしかに、きのう道を教えてやった三人の学者のやつにそっくりだぁ。いったい、誰がこんなものを作って、ここに置いてったんだろ」
そこには、あの三人の学者にそっくりの、三体の石像があったのだ。これは、なんなのだろうか。
「いいや、これは、人間が作ったものではない」
タウエ老人だ。
「なんですってぇ?」
「石神様の祟りなんだ」
タウエ老人は断言する。
「この三人は、ワシの言うことを聞かずに、森に入って、石神様の祟りで、石にされたってことだ」
「またまた…、じいさんの若い頃でも、そんなことをまじめに言う人がいましたかねぇ」
「いや、ほんとうサ」
「…せんぱーい!」
そこに、息を切らせて階段を上ってきたのは、警官に扮した高木ブーにも見えるが、アキヤマ巡査長の後輩、イズミダ巡査である。
「…はぁ、ハァ」
「オゥ、イズミダ。そっちはどうだ」
「…はイッ、先輩…。ウジヤ旅館にも、三人は今朝出かけてから、一度も戻ってないそうです」
「ホーゥ? じゃ、どこにも見つからないってわけか」
「ほら、ワシの言ったとおり」
「まさかねぇ…、今のところ、見つからないってだけのことですよ」
「しかし、先輩。ほんとうにこの石像はよくできていますなぁ」
三体の石像は、むろん微動だにせず、そこにたたずんでいるのだった。
…
一方、ハルカは、きのうの記憶をたどって、一人ミシャグジ池のほとりまで来ていた。普段のミシャグジ池は、うっそうとした森に囲まれ、そこだけが空に抜けた穴の底の水たまりのような、静かな所だ。
…やっぱり夢じゃなかったんだ…
池岸には、水をかぶったあとがあり、そこには巨大な手をついたような、その指のあとが、しっかりと残っていたのだ。
…マスカ!
ハルカは、勾玉を左手の平に乗せて、身の前につきだし、その名を呼ぶように、視線を投げかけた。…勾玉は、その輝きを増した。
(((──ハルカ…。デビューボが現れたようです。)))
「マスカ!」
(((すぐ近くにいる…、急いで!)))
…
二人の警官が帰ったあとも、タウエ老人は、その場に残って、何事か考えていた。
「うーん…、どうしたものかな」
「…あ、おおおじいちゃん」
「おお、アキじゃないか」
「あ…、コンニチハ」
そこにやってきたのは、アキとヒカルの二人だ。二人はどんどん森の奥へ進むハルカに付いていけず、神社で落ち合う約束をしてここに登ってきたのだった。
「あれー、これ、なんなの?」
三体の石像のことだ。
「これはね、石神様の霊験ってわけなのサ」
「レイゲンってなにー? ヨクワカンネェ〜」
「…あれ、タウエさん、いま、何か変な音が聞こえなかった?」
「んー? 鳥の声とかじゃなくて? どっちの方?」
「あっちだったかな…」
三人は、ヒカルの指した方角へ耳を傾けた。
「あっ」
山陰から巨大な顔面が、ぬっとつきだしたと思うや、その恐ろしい両眼を、三人の方へ向け、異形の全身をあらわしたものがある。邪神デビューボだ!
「い…石神様じゃ、石神様が…」
「なにいってるのー」
逃げようとする三人に向かって、デビューボは左手を伸ばすと、ヒカルを捕まえてしまった。
「た、助けてー…」
「あっ、モモタ君が…、おおおおおじいちゃん、どうしよう」
「ひぇーっ、ナンマンダブ、ナンマンダブ…」
「それなんて祝詞?!」
デビューボは、なにをしようというのか、ヒカルを自分の鼻先へと持ち上げた。
{{{ウ、ウ、ウーッ}}}
「あーッ…」
そのとき!
(((──待てっ!)))
一条の光がデビューボの左腕に巻き付いたかと思うと、一瞬ののち、それは巨人の姿へと変化した。マスカだ!
マスカはデビューボの手首をひねる。デビューボはたまらず指を開いた。ヒカルは、なんとかデビューボの指にしがみついていたけれど、思い切って、近くの木の枝めがけて飛び降りた。
マスカはヒカルが飛び降りたのを見届けると、デビューボと三人の間に距離をとるように、デビューボの腕を担いで、エイッとばかりに放り投げた。
ズズズズ……
地面を揺らして、デビューボは着地した。
(((──デビューボよ、どうかお鎮まりください)))
マスカは地球人には聞こえない周波数の声で語りかけた。
(((アンドロ比良坂にお戻りくだされば、岩石惑星に宮柱太しり、大宇宙に千木高しり、立派な神殿を造営して、お祀りいたしましょう)))
{{{──ダガコトワル}}}
(((──なぜです)))
デビューボはマスカの再度の問いには答えず、目から怪光線を発射してこれに応じた。マスカはひらりと怪光線をかわした。空中に消える怪光線。だが、このままでは地球人に危害が及ぶ。
(((──やむを得ない)))
マスカが、両腕を体の前へ伸ばして、掌を一瞬あわせ、それをわずかに離すと、そのたなごころの間から光線が飛び出した。「カシワデ光線」である!
{{{ウガーッ!}}}
カシワデ光線はデビューボに命中した。傷を負ってひるんだデビューボは、雲に化けて逃げる。
(((──追わなければ…)))
しかし、マスカには時間がなかった。マスカの故郷とは著しく異なる地球の大気は、マスカには酸素が濃すぎるため、マスカの体表を徐々に浸食し、そのまま居続けると、やがて二度と立ち上がれなくなってしまうのだ。
マスカはデビューボを追うことはいったんあきらめなければならなかった。マスカは自らの肉体を「幽体」と呼ばれる状態に転換し、ナガハラ・ハルカの体の中に隠れることで地球上での危機を回避する。
タウエ・アキらの前にたしかに現れた二つの未知の存在は、あっという間にすっかり姿を消した。
「…うー、いまのはなんだったのだろう。…おおおじいちゃん?」
「イヤ、これは大変なことだ」
「タウエさーん…」
森の中に落ちたモモタ・ヒカルが戻ってきた。
「あ、モモタ君、へいきだったー?」
「うん、なんとか…。それより、ナガハラさんは大丈夫かなぁ」
顔を見合わせる二人。森の中へ一人で入っていったハルカのことを思い出す。探しに行かなければならないだろうか。
「……おーい!」
ハルカだ。
「あ、ハルちゃん、よかったー」
「モモタ、腰打ったりしなかったか?」
「え、どこで見てたの」
「エ」
ハルカもヒカルも、なんとなくばつが悪そうだ。
「い、いやぁ、実はすぐそこにいたんだ…」
ともかく互いの無事を確認した安堵感でその場は収まった。だが、デビューボはどこへ行ったかもわからない。そして、一部始終を見つめる灰色の怪人の存在をハルカたちはまだ知るよしもなかった…。
デビューボの行方は、そして事件の影で暗躍する灰色の怪人とは。次回、ウルトラマスカ第三話『謎の探偵事務所(仮)』頭脳宇宙人ポイロット星人登場(予定)! 乞うご期待!
どぎっ!
林) ダレモイナイ...タチヨミスルナライマノウチ |
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谷) オッサン...ウチノホンダケハカッテクレ |
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第二話『闖入者を撲て』(前編)
──うーん…。
高校生ナガハラ・ハルカは、小山からチョッとつきだした、八畳敷きほどもある一枚岩の上に仰向けになって、暮れかけた空をぼんやりと眺めていた。
…そろそろうちに帰らないとな…。
場所は、自宅からほど近い、「四方津神社」の森である。神域とされていて、本来出入りはできないことになっているが、ハルカは小さい頃にはよく友だちと一緒にこっそり遊びに来ていたし、両親や祖父母からもそういう話を聞かされたこともある。
さて、ハルカが腰を上げていよいようちに帰ろうと思ったとき、薄暮の空に二条の流れ星が目に入った。しかもそれはどんどん近づいて、ついには四方津神社の森の中へ落ちたのだ。
(妙だな?)
ハルカがそう思ったのも無理はない。流星はたしかにすぐ近くに落ちたにもかかわらず、地響きもなんの音もしないからだ。
(ミシャグジ池の方だ)
ハルカは二つの流星のうち、近くに落ちた方の見当を付けると、森の中へ分け入った。
ここで CM をご覧ください〜。
双風舎刊『バックラッシュ!〜なぜジェンダーフリーは叩かれたのか〜』は6月下旬発売です。
草をかき分け、枝を払って、森を進むと、ミシャグジ池の方からふしぎな光が出ている。それは、およそ地球上には存在しそうにない──、そう、宇宙からやってきたに違いないと思わせるような光だ。ハルカは池のほとりに立った。
「あっ!」
ハルカは見た! 池に落ちたのは、宇宙からの生命体だったのだ。その生命体は、地球人の何倍あろうかわからないほどの大きさで、しかし、たしかに人間のような胴体と四肢を持っている。巨人は池の底に片膝片手をついて、光のなかでハルカを見おろした。
(((──……)))
「え?」
(((──あなたはこの星の人間ですか…)))
巨人が発した声は、鼓膜をまったく打たずに、それでもハルカの意識にはっきりと響くのだった。
「なんだって?」
(((──わたしの名はマスカ。…アンドロメダ星雲の宇宙大社に仕える神官です。──わたしたちが封印していたアンドロ比良坂の窟の注連縄がなにものかによって断たれ、鎮め祀っていた邪神デビューボがこの世によみがえりました。──わたしはデビューボを追い、はるか銀河を越えてこの星までやってきたのです)))
ハルカはとても信じられない思いになったが、目の前で起こっていることは呑み込まなければならないと思い直した。
(((──デビューボを追って、昼夜を兼行して飛行すること230万光年、身体は疲労し、さらに反撃を受けて、ここに墜落してしまったのです)))
全身をよく見ると、たしかに傷つき、疲れているようだ。
(((──デビューボも傷を負って、この近くに潜んでいるはずです。しかし、わたしはこのままの状態ではこの星で動き続けることができそうにありません。お願いがあります。あなたの体をわたしに貸してください。)))
──体を貸すというのは、いったいどうことだろうか? そしてそれとは別に、ハルカには自分の肉体について普段から考えていることがあった ──瞬間、そのことを連想した。
(((──時間がありません。デビューボのあとを追うためです。それに、この星の大気はわたしの肌に合わないようです)))
マスカはいっそう疲れたというように手を池の底でつきなおした。その肌を見ると、硫酸に侵されるように徐々にかすれていくようだった。ハルカはなお時間をかけようとはしなかった。
「ああ、いいよ。こんな自分でも人助けになるなら──」
辺りを覆っていた光がさらに輝きを増し、ハルカの目を眩ませた。 ──何が起こったのだろうか。
………
チチチ…
「──あれ…」
小鳥の声と、窓からの朝日にさらされて、ハルカは目を覚ました。そこは自分の部屋だ。ハルカは、昨日下校したままの格好で、ベッドに突っ伏していた。
(──夢を見ていたのかな?)
放課後、四方津神社の森に行ったのはたしからしい。しかし、そのあと、いつ帰宅して、いつ眠りについたのだろうか。
「うーん…」
記憶がたしかでないが、ともかくも今日も学校に行かなければならない。起きあがろうとしたとき、ハルカは伏せた左手のうちに何か石のようなものを持っていることに気が付いた。
「これは…なんだろ」
手を返してみると、それはすきとおった黄緑色の勾玉だった。そしてそのこぶになっているところの中心が、きのうミシャグジ池で見たはずのものと同じ色の光を、かすかに発しているのだった。
(後編へつづく)